LETTER#09 言葉が要らない手紙

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南区のお客さま Mさん
Linde CARTONNAGE
当店の「手紙のじかん」を知る人は、私だって!と鼻息荒くするかもしれません。でも待ってください。恐らくはこれ、万年筆で描かれたものでないんですよ。手紙の差出人Mさんが来店したのは先日のこと。当初、彼女の目的が万年筆と聞いた私は、いつものように、棚にあるペンをひと通り試してもらいました。ペン先の字幅や弾力など、Mさんの好みが少しずつ詳らかになってきた頃(机上にはもはや10本近くのペンが転がっていた)のこと、“世話好き”の私は“うっかり”口を滑らせました。「せっかくおこしくださったんです。ガラスペンも試してみてはどうでしょう」。いよいよもってMさんが自分好みの一本を選択する段階に、私ときたら、彼女の英断を遮るかのごとく、同類の万年筆ならまだしも、まったく異質のペンを勧めているのです。私のその素っ頓狂な提案に、Mさんは「それなら」と愛の(?)返事(当然その答えが「NO」なら、この記事はないのですが)。実はそこからが長かった…。楽しかった…。シャッとガラスと紙が擦れる高い音、驚くほど細かな線が引けるペン先、軸の美しい模様。「すべてに魅せられた」。とMさんはみるみる“深みに”はまっていきました。気がつけば夕刻(彼女の入店時間は14:00頃だったと思う)。窓越しの黄昏色が、時の長さを実感させます。(と、余計なセンチメンタルはさておき)ところで私、Mさんがさっきまで座っていた机に目をやって、思わず声を上げました。紙上には山の稜線や少年のイラスト、カップルの絵といったおびただしい“落書き”が。しかも細かい線で整然と描かれています。ガラスペンを持つこと自体初めてという彼女が書いていたのは、字ではなく、絵、だったのです。便りはその彼女からのもの。いうまでもなく…

BOX LETTER SET “compact” 2808円(BOX SET 封筒&カード各10枚入り)/ヴェネチアングラスペン 10800円 (Linde CARTONNAGE)

LETTER#08 挿絵が “語る” あの日の真実

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アパレル・パタンナー Hさん
Linde CARTONNAGE
ファッション・パタンナーのHさんから届いた手紙に、料理のレシピが書かれていました。#まぐろとわけぎの酢みそ和え。丁寧にも挿絵まで入っている。彼女とは昨年来の付き合いで、ご自身の職場は博多にあるにもかかわらず、ことあるごとに大手門まで足を運んでくださいます。先日のこと、その本人と友人をまじえて食事を一緒する機会がありました。場所は、全員が初めて利用する呉服町のスペイン料理店。イカスミのパエリアが美味しい店でした。デイリーワインをやりながら終始、仕事や趣味の話をしていたところ、何かの拍子に自炊の話に(なったのかな)。食事も後半に差し掛かった頃合いでした。久しぶりの酒会という状況も相まって、リンデは随分調子よく(開放的に)なっていたと思います。同席した友人の後日談によると、酒のあてすら作れない男なんかこれからは務まらんとか、(リンデは)冷蔵庫内の限られた食材で瞬時にレシピを組み立てるほどの創造性をもってるとか、私何を思ったか目を覆いたくなるような持論を散々Hさんに投げかけ、自分のデキっぷりをPRしていた(何のために…)らしい。しかし、優しい彼女は、私の根も葉もない(根くらいあると言ってみる)自慢をスマートに受け流し、数日後、こんな形で、当時の返事を手紙に託してくださったのです。「“デキる” リンデさんなら、これくらいつくってみましょう」(とは書かれていなかったけれど)。

(奥の白い紙)Lin.01便箋 830円(Linde CARTONNAGE)

LETTER#07 カードの粋な使い方

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早良区のお客さまIさん
Linde CARTONNAGE
店に立ち寄っては毎回楽しい話題を振りまいてくださるIさん(女性)。旺盛な知的好奇心という言葉がぴったりの彼女は、間もない福岡での生活にも関わらず、ローカルのいわゆる、要的スポット(店)をすでに熟知。場所によっては顔なじみまでいるという驚きのバイタリティーも魅力です。彼女と接するたび、街の新たな息吹を教えられる福岡居住14年めのリンデです。先日の“議題”は花屋。近ごろエアプランツに興味をおもちのようで、こちらが知りうるいくつかの良店を(紙に書いて)紹介差し上げたところ、たいへん喜んでくださいました。それからまだ2週しか経っていないけれど、おそらくIさんのこと。すでに店のチェックを終え、次回の来店までにいつもの鋭い感想を準備しておられることでしょう。そんな(そろそろ本題に…)彼女から、リンデにお便りいただきました。見ると先日お求めいただいたペンに、宝石という名の【エーデルシュタイン “トパーズ”】のインクをお入れになって。また、これぞ万年筆向きといった流れるような字体もさることながら、さすがはエスプリのきいた女性の発想は一枚も二枚も上手(うわて)!封筒の中には便せんのみならず、カードも差し込まれていました。読んでなるほど。改まった内容を便せんに、季節をからめたひと言(心遣い)をカードにと、読み手の心情をつかむ気配りの工夫に、こちらはただ感嘆するほかありませんでした。この使い分け、ちょっとクセになりそうな予感です。

BOX LETTER SET “compact” 2808円(BOX SET 封筒&カード各10枚入り)/Blue leaf/ブルーリーフ 便箋 885円 (Linde CARTONNAGE)

LETTER#06 あの時のペンで(推測)

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浦安のお客さま Tさん
Linde CARTONNAGE
浦安の(ご縁ありまして)お客さまからお便り届きました。ポストから取り出した瞬間、紙質やサイズ感からこれがリンデでお求めいただいた封筒であることがすぐにわかりました。なんと粋な計らいであるか。このTさんだけでなく、リンデのお客さまには、このような心遣いをくださるお客さまが少なくありません。手紙屋冥利というのがあれば、こういうことをいうのでしょうか。慣れた感じといおうか、ご本人にとっては特に変わったことでないというような手つきで捺されたシーリングスタンプ(あくまで推測です…)を剥がしてみるとどうでしょう、紫陽花(あじさい)色の封蝋に合わせたインクで文がしたためられているではありませんか。夏の暑さを忘れさせるようなペールパープル。ご本人がよく手紙をお書きになるという話を残してくださった六月の記憶がたちまちによみがえります。たしかお気に入りの万年筆は「同じものの2本目」という“ペリカン”のスーベレーン(青縞)だったかな。おしゃべりに花がさき、しまいにはリンデ、ご本人愛用のそのペンを借りて筆記までさせてもらったっけ。初対面の方になんとも図々しい話であるが、その書き心地がなかなか忘れられず、“ペリカン”の取り扱いを始めた最近です(こんなところで初告知ですが!)。字面やインクの感じ、それからTさんの親切に触れて、このペンのよさをますます確信しました。

RICH MIND CARD “mignon”(Linde CARTONNAGE)2808円(BOX SET 封筒&カード各10枚入り)

 

LETTER#05 絵本のなかのきみへ

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大学生 みさきさん
ガブリエル・バンサンの絵本
千秋楽の絵本カーニバル。雨にみまわれましたが、たくさんの絵本ファンのみなさんの来場をいただき盛況のうち終了しました。本展は様ざまな絵本の物語をお楽しみいただくとともに、読後の率直な感想や気持ちを物語の登場人物に宛てて手紙をお書きいただくワークショップもおこないました。大学生のみさきさんも感想をお寄せくださったなかの一人。両親の愛に飢える少女の胸の内を綴った「わたしのきもちをきいて」に添えたみさきさんの少女へのまなざしはあたたかく、ご自分にもあったこどものころの気持ちを思い起こすように、少女へ共感のことばをおくってくださいました。そのなかの一節をご紹介。みさきさん、どうもありがとう。

“きみにひとつ秘密を教えてさしあげます。おとなはこどもの目をたまに忘れてしまうけど、こどもの目を捨ててしまうわけではないのです”。

Blue leaf/ブルーリーフ 便箋 885円 (Linde CARTONNAGE)

 

 

LETTER#04 好きな字

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古書店主 小村勇一さん
Linde CARTONNAGE
旅がテーマの古書店として、店のある鹿児島をはじめ、昨今の古書ブーム(表現が適当でないかもしれないが)の風に乗って、全国的にも知られる『つばめ文庫』(本や本屋の特集をする雑誌でもよく取り上げられています!)。今年、店が5年目を迎えたことを友人であり店主の小村から届いた手紙で知って嬉しくなった。ところで、彼と私の友人関係は10年を超える。前ほどやすやすと会うことはできなくなったが、近ごろは彼がイムズビルで出張販売をおこなったり(すげ〜)、仕入れとかで福岡にくるときなどに面会できる。いつぞや宿泊先がないとかで新婚家庭(当時)の我が家へ泊まりにきたこともあるし、宿泊先があるのに大盛りの白米を茶碗3杯も平らげて帰っていくこともあった。こっちに何か頼み事をする際申し訳なさそうに相談してくるわりに、(無遠慮とまではいかないが)大胆な行動をとっていくところなんか出会った頃と変わらなくて可笑しくなる。それはこの手紙の内容しかり、書く字体にもいえる。褒めたかないが、彼は誠実な男だ。こちらがモヤモヤでもビャンビャンでも、その前後関係を追及するわけでなく激励する。そしていつもその気持ちを誰よりも“遅く”伝えてくる。それからあいつの字はとことん下手だ(これだけは見下して言おう笑)。ダンスしている。激励文ならなんかもっとビシッとトメ・ハネとかをキメてほしいものであるが、それだけは叶わない。ダンスする。

 

LETTER #03 再会を念じて

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漁港勤務 杵淵さん
Linde CARTONNAGE
レターカードへの活版印字が人気と謳うリンデですが、これは確かに人気です。名前や好きな言葉を自由に印字すれば、空白の紙にさり気なくあしらいを加えられるからです。「ありがとう」でも「さようなら」(今のところないですが)でもいい。選んだ紙に何か文字を印字してみられてはどうかというご提案。ただ、捨てない限り消えない印字だし、どの言葉や文章を入れるかは当然おおきな問題。今、テスト印刷分をかき集め、今日までの印字サービスを振り返っていますが、注文の数だけ言葉の種類やパターンも増えてきました。その場で言葉を預けて行く人あれば、持ち帰る人もあって、その印字カードが自分用でも他者用(プレゼント)であってもお客さんそれぞれの“トクベツ”に対する捉え方があり、選ばれる言葉に(その人の)人生があることを実感します(バーや喫茶の中年マスターのごとき発言ですが…)。当ブログで先日も紹介した、この船乗り紳士しかり。“こんぱくぎよこう”、一体どんな港なんやろ。この方とはまた会える気がするからたずねよう。それまでお元気で。

レターカード活版印字 20枚セット・使用紙:コンケラード オイスター 3,780円(Linde CARTONNAGE)

LETTER#02 置き手紙

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美容師 筒井裕子さん
Linde CARTONNAGE
きれいな字と良心はセットのようなものだといつも思っています。何度も来店いただきながら、まだ一度も“店内で”面会できずにいる美容師の筒井さんから、二度目の来店時(店主不在)に便りをもらいました。店を手伝ってくれる星水さん(ゆくゆく紹介します)が、彼女から預かったという封筒を開けると、きれいとしか言いようのない字がバランスよくしたためられていました。「お会いできないことがきっと“手紙”へつながっていくのですね…。本日も雨です」。置き手紙の魔力と言おうか威力でしょうか。そう書かれると、店にいなかったことがいっそう悔やまれます。しかし、文面を見る限りそこに怒りはなく(笑)、ご本人が改めてここで会える日を待ち望んでくださっているのが伝わってきました。筒井さん、ありがとうございました。念のためもう一度お伝えしておきます。リンデは水曜定休です!

RICH MIND CARD “pep talk”(Linde CARTONNAGE)2808円(BOX SET 封筒&カード各10枚入り)

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雑誌編集者 下川マイ子さん
Linde CARTONNAGE
開店から間もなく雑誌の取材を受けました。現場の世話をしてくださった下川マイ子さんは、所属編集部で多忙極める要的エディターであると同時に、長年公私にわたり店主と親交のある友人でもあります。開店前(昨夏ころだったか)のある夜、居酒屋で商売未経験の僕が紙屋をはじめるという報告をしたとき、彼女は驚きながらも喜んで聞いてくれたありがたい存在のひとり。ぶしつけかつ妙に熱帯びたこちらの言動。所は酒場。飲み屋における机上話が本当に実現するやら、ましてうまくいくかも予測できぬ状況に関わらず、帰り際、彼女はこうまとめたのです。「その開店取材、遺作にする!」。い、遺作?あまりの突拍子に言葉を失ったのを今でも覚えていますが、彼女のシニカルユーモアを知っているからこそ、あの夜の言葉は「それだけ熱をこめて取材する」という気持ちの裏返しだったのかもしれません。かもしれないとは失礼、裏返しでした。もはやジョブホッパーと言われて仕方ない店主の度重なる転機に、都度激励をもらってきたなかで、自分が店を始めるという立場で(店主は雑誌編集者でした)取材を受けるという今回の厚意。嬉しさと同時に不思議な気持ちになりました。取材内容は言うまでもなく、なにより彼女の特別な親切に感謝せざるを得ません。「校正を」と送られてきたゲラに言葉が添えてありました。リンデの一筆せんでした。どこもまでもニクい女、マイちゃん(と言ったらなぜか照れてくれるので明記)、いつもありがとう。こっちが何かお返しできるネタをつくってください!

SAND COLORS/サンドカラーズ 一筆せん(トマト) 648円 (Linde CARTONNAGE)